症例報告(2/3UP)
変形性膝関節症の症例報告
症例報告:変形性膝関節症(70代女性・中等度の変形)
【病状】
70代女性の患者様は、2~3年前から左膝の痛みが始まり、その後右膝にも痛みが発生。
階段の上り下りや、長時間座った後の立ち上がり時に強い痛みを感じ、日常生活が困難になっていました。
運動不足による体重増加もあり、歩行時の痛みがさらに悪化していました。
整形外科で定期的にヒアルロン酸注射を受けていましたが、痛みは改善せず、むしろ悪化。
このままでは歩くことがさらに大変になるのではと不安を感じ、当院を受診されました。
エコー検査では、KL分類3度程度の変形と関節水腫が確認され、可動域も制限されている状態。
炎症を抑えて関節の動きを良くするために、治療を開始しました。
【治療内容】
初診時の評価では、痛みが強く、膝の動きもかなり制限されている状態。
そのため、できるだけ早く痛みを和らげ、動けるようにすることを目標に、次の施術を組み合わせました。
✅ ラジオ波(高周波温熱療法)
→ 深部まで温めて血流を促進し、筋肉や関節の柔軟性を高める
✅ LIPUS(低出力超音波治療)
→ 軟骨の修復を助け、炎症を抑える
✅ EMS(電気筋肉刺激)
→ 膝を支える筋肉を活性化し、膝関節の安定性を高める
✅ ハイボルト(高電圧電流刺激)
→ 炎症を抑え、痛みを軽減する
【現在の状況】
現在、週2回の通院ペース(2/W)で施術を継続中です。
治療開始から3週間後には痛みが軽減し、歩行時の負担が軽くなりました。
関節の可動域も少しずつ広がり、膝の安定性も向上。
その後、2カ月目から徒手的運動療法(ストレッチや筋力トレーニング)を開始。
特に、臀部・大腿四頭筋・下腿部の筋力を強化し、膝関節の負担を軽減することを目指しています。
🔹 今後の目標
- 関節の動きをさらにスムーズにすること
- 階段の昇降が楽にできるようにすること
- 痛みが再発しないように筋力をつけること
【ヒアルロン酸注射について】
患者様は整形外科で定期的にヒアルロン酸注射を受けていましたが、痛みの改善は見られず、次第に悪化していました。
近年、欧米ではヒアルロン酸注射は推奨されなくなってきています。
その理由として、以下の点が指摘されています。
📌 効果がほとんどない可能性
👉 研究によると、ヒアルロン酸注射の効果はプラセボ(偽薬)とほとんど変わらないことが分かっています。
📌 関節の炎症を悪化させる可能性
👉 ヒアルロン酸注射を続けることで、関節の炎症が進み、長期的には軟骨がすり減るリスクがあるとも言われています。
📌 国際的なガイドラインで非推奨
👉 アメリカ整形外科学会(AAOS)や英国NICEでは、ヒアルロン酸注射は効果が不確かであるとして推奨されていません。
【LIPUS(低出力超音波治療)について】
一方で、LIPUS(低出力超音波治療)は変形性膝関節症に効果が期待できる治療法として注目されています。
📌 軟骨の修復を助ける
👉 研究によると、LIPUSは軟骨細胞の増殖を促し、関節軟骨の修復を助けることが確認されています。
📌 炎症を抑え、痛みを軽減する
👉 超音波の刺激によって、炎症を引き起こす物質(サイトカイン)が減少することが報告されています。
📌 関節の動きを良くし、歩行能力を改善
👉 実際に、LIPUSを使った患者さんの多くが関節の可動域が改善し、歩行時の痛みが軽減したという臨床研究の結果もあります。
📌 欧米のガイドラインで推奨され始めている
👉 最近では、**ヨーロッパのリウマチ学会(EULAR)**などでも、運動療法と組み合わせることでより良い結果が得られると推奨されています。
当院では、LIPUS治療を推奨しています。
【参考文献】
🔹 ヒアルロン酸注射に関する研究
- Bannuru, R. R., et al. (2019). 「変形性膝関節症に対する関節内ヒアルロン酸注射の有効性:系統的レビューとメタアナリシス」 JAMA.
- Altman, R. D., et al. (2022). 「変形性膝関節症における炎症とヒアルロン酸の役割」 Arthritis Research & Therapy.
- 日本整形外科学会 (2021). 「変形性膝関節症診療ガイドライン」
🔹 LIPUSに関する研究
- 田中英俊 他 (2016). 「低出力パルス超音波治療が軟骨細胞の増殖と機能に与える影響」 日本整形外科研究誌.
- Zeng, C., et al. (2020). 「低出力パルス超音波治療の変形性膝関節症への有効性:システマティックレビューとメタアナリシス」 Clinical Rehabilitation.
- Rutgers, M., et al. (2021). 「LIPUSとヒアルロン酸注射の比較:変形性膝関節症患者を対象とした無作為化比較試験」 Osteoarthritis and Cartilage.
- EULAR(欧州リウマチ学会)(2022). 「変形性膝関節症の理学療法管理に関するガイドライン」